第159回国会 本会議 第16号 平成十六年三月十八日(木曜日)

泉房穂発言部分です。(国会議事録より抜粋)

民主党の泉房穂です。民主党・無所属クラブを代表して、総合法律支援法案、いわゆる司法ネット法案につき、みずからの弁護士としての経験と現状認識を踏まえ、関係大臣に質問させていただきます。(拍手)

この法案は、極めて重要な法案であります。司法改革の目的は、司法と国民の距離を縮める、国民に身近な司法をつくることです。国民が司法に参加する、裁判に参加することによって身近にさせるのが裁判員制度、司法サービスを国民にあまねく使いやすくするのがこの司法ネット法案です。この両者相まって初めて、司法改革は改革の名に値する改革になるわけであります。(拍手)

世の中には、泣き寝入りしかかっている方がたくさんおられます。相談したくても、近くに相談するところもない。近くに弁護士もいない。相談に行っても、納得できる相談を受けられず、たらい回しにされてしまう。また、弁護士を頼みたくても、金が高くて頼めない。そんな中で、泣き寝入りしかかっている、あきらめかけている方がたくさんいます。

 皆さん、そういった方々の顔を一人一人ちょっと想像して思い浮かべてください。

例えば、交通事故で片足をなくしてしまって、将来の夢を断たれてしまった若者の顔。医療ミスで小児麻痺で生まれてしまった子供を抱えて、悲しげな顔をする両親や祖父母の顔。訪問販売員にだまされ続けて、破産状態に追い込まれかねないお年寄りの顔。また、大震災で家や仕事、さらには家族までをも失ってしまった被災者の顔。犯罪に巻き込まれ父親の命を奪われ、茫然と立ちすくむ子供たちや母親の顔。

そんな顔を少し思い浮かべてみてください。弁護士として、そんな方々と向き合って仕事をしてきました。そんな方々に対して、国が責任を持って法律的に支援をしていく、これが司法ネット構想だったわけではないですか。(拍手)

小泉総理も、期待の持てる発言はしていました。こう言っていました。司法は高ねの花にとどまらず、だれにとっても手を伸ばせば届く存在にしていかなきゃいけない、気軽に相談できる窓口を広く開設して、全国あまねく、どこに住んでいても法的な救済を受けられるようにしなきゃいけない、そう語っていたのは総理本人です。随分期待もしました。でも、出てきた法案を見て、がっかりです。改革、改革と言いながら、この司法改革までもがこの程度なのかと、情けない。

この法案、ポイントは五つあります。一つは司法過疎地域の解消、二つは相談窓口の開設、三つは民事法律扶助、四つは公的刑事弁護、五つは犯罪被害者支援、この五つです。順次問題点を指摘しながら質問させていただきます。(拍手)

まず第一、司法過疎地域の解消です。

小泉総理は、いいことを言っていました。全国三千三百余りある市町村のうち弁護士がいない地域が八五%、具体的な方策をとる必要がある。ところが、この法案、具体的なことは何も書いてないんです。どういうことですか。  独立簡易裁判所という裁判所は、全国に百八十五あります。そのうちの百十四の裁判所では弁護士が一人もいない、こんなありさまです。地方に住んでいるからといって相談が気軽に受けられない、弁護士が頼めない、これではだめです。こんな状況をいつまでも放置していてはなりません。

野沢大臣にお尋ねします。司法過疎地域を解消するために、いつまでに、幾つ支援センターをつくり、そして司法過疎地域を解消していくのか、具体的な数値をもってお答えください。(拍手)

二つ目。二つ目は、気軽に相談できる相談窓口の開設です。

これも、法案には資料や情報の提供としか書いていません。気軽に相談できる、手を伸ばせば届く存在、そうしていくためには、いろいろな工夫が必要です。土曜日や日曜日や夜であっても相談ができるような体制を組むとか、また、駅前や商店街に巡回相談をしていくとか、いろいろな工夫をしていくべきだと考えます。

野沢法務大臣、どういった工夫をもって国民に身近な司法をつくっていくのか、お答えください。また、地方自治体における無料法律相談との関係も、その充実化についてもあわせてお答えください。(拍手)

三つ目。三つ目は、民事法律扶助。要は、お金はすぐに用意できなくても法律相談を受けられるのか、弁護士を頼むことができるのかという問題です。

この点、今回の法案、ほとんど何の改善もなされていません。今の日本は、余りにも予算が少な過ぎます。イギリスの場合、一人当たりの国庫等負担額は七千円以上です。ところが、日本の場合、幾らだと思います。たった八十五円。八十分の一以下ですよ。その結果、今の現状では、生活保護の方かそれに近い低所得者層、二割だけしか利用できていないんです。残りの八割は、この制度がまだ利用できていないんです。  そこで、お尋ねします。これは法務大臣と財務大臣。谷垣財務大臣はみずから弁護士資格を持っておられる、よくこのことはわかっておられると思います。司法改革の重要性、司法ネットの必要性の認識をそれぞれの大臣に問います。(拍手)

四つ目。四つ目は、公的刑事弁護。この点は、被疑者の段階から国選弁護人がつくことは、確かに前進です。しかしながら、選任時期、対象事件の範囲、また、弁護の独立性の確保、報酬の確保など、改善点はあります。この点、改善点、その決意を法務大臣、お答えください。

五つ目。これは大事です。犯罪被害者の支援。与党の方々もここは共通すると思います。よく聞いてください。

犯罪被害者の支援。今回、この法案、具体策は盛り込まれていません。残念でなりません。加害者側にだけ手厚くて、被害者側に冷たい司法であっていいはずがありません。犯人にかわって被害者や遺族のもとを訪ねていって、謝罪したり、示談交渉を申し込んだりして、被害者や遺族の顔を見るたびに思います。本当に支援が必要なのはそういった被害に遭われた方、遺族の方なのではないか、そんなふうに思います。(拍手)

今回の法案、加害者側、被疑者についても前倒しして早い段階から税金をもって国選弁護人をつけるのであれば、せめて重大事件の被害者や遺族に対しては同様の支援体制を組むべきだと、私は心の奥からそう思います。国は、今、法的な支援を必要としているのは何よりも被害者や遺族の方々であるという認識をもっとしっかりと持つべきだと、心の奥からそう思います。(拍手)

法務大臣、具体策をお伺いします。犯罪被害者支援にいつまでにどういった体制をとるのか、具体的にお答えください。

また、犯罪に当たるかどうかはっきりしない場合であっても、法的な支援を必要とする場合があります。例えば、ドメスティック・バイオレンスによる被害、ストーカーによる被害、児童虐待などの場合です。こんなときは、犯罪に至る前に、早い段階から法的な支援が必要です。犯罪を防止する視点がとっても大事です。この点、犯罪防止の見地から、こういった問題にどのように取り組むのか、法務大臣、お答えください。(拍手)

そして、成年後見制度の支援の問題です。

今、日本には、痴呆性の高齢者百四十九万人、知的障害者四十六万人、精神障害者二百五十九万人、合計四百五十四万人、これらの方々が地域で安心して暮らしていくには、成年後見人、こういった方々の支援が必要です。

例えば、ドイツの場合、人口八千百万人に対し、この制度を利用している方は既に百万人を超えています。ほかの国でもほぼ一%、人口の一%を超えています。日本に照らせば、人口の一%、百二十万人以上が利用してしかるべき制度なわけであります。

ところが、今の日本、現状はわずか四万人。その結果、ひとり暮らしをしているお年寄りが消費者被害に遭って、何度も何度もだまされ、あげくに施設入所を余儀なくされる、そんな悲しい現実が今存在します。  この問題にどうやって立ち向かっていくのか、この点、先月二月二十五日の法務委員会にて法務大臣に問いただしたところ、この司法ネット構想の中に成年後見制度を位置づける、そういった答弁をいただきました。

では、問います。この本会議の場において、その具体的な方策をお述べください。(拍手)

また、同様に、先月二月二十七日の厚生労働委員会において、厚生労働省としての対応を問いただしました。その際、坂口大臣より、心を入れかえて頑張るとの答弁をいただきました。この問題は、厚生労働省みずからが責任を持って頑張るべき問題です。

では、問います。法的支援を必要としている高齢者や障害者に対して、どういった具体的な方策をもって支援していくのか。心を入れかえて頑張るとまでおっしゃった大臣でしょうから、前向きな答弁をぜひよろしくお願いいたします。(拍手)

冒頭にも申しました、本当に困っている方、悩んでいる方、そんな方が全国にたくさんおられます。そんな方々に手を差し伸べる、それは国の責任、政治家の責任です。そういった方々の顔を思い浮かべながら、各大臣、お答えください。

この司法ネットの拡充に、いわゆる反対勢力はいません。要は、やる気次第です。司法ネットにかける熱意と意気込みが伝わってくるような熱い答弁を期待して、私の質問を終わります。(拍手)